死ななきゃOK

死んだ方がいい、死にたくない、いろいろあるかもしれんけど、とりあえず、死ななきゃOK。っていつも言えたらなぁ・・・

2008.06.30 23:59

 スティーヴン・オカザキ監督のドキュメンタリー、『ヒロシマナガサキ(原題:WHITE LIGHT/BLACK RAIN)』を観ましたよ。誰だよそれって言われてもあれだけど、アカデミー賞受賞監督といえばいいのかなぁ?

 そんな人がつくった「原爆映画」ですが、その内容は、実に、シンプルな作り。「被爆者」のインタビューを中心に、彼らの話に合わせての映像(日本では中々お目にかかれないアメリカものも)が淡々と流されるだけというもの。それでいて、内容が濃い。これは手腕がないとできないでしょうねぇ。なんというのか、「いいダシ出してるねぇ」という感じといえばよいのか。

 被爆者の体験談というのは総じて「聞きたくもないほど恐ろしい嫌なもの」という印象が現代人にはあると思いますが(『はだしのゲン』を読めないのと同じ感覚)、ここはスティーブン・オカザキという腕の良い料理人の手によって、信じられないほど、引き込まれるように見てしまう作品に仕上がっています。
 なので、なぜそうなのかについてちょっと考えてみた。

 

 最初、太平洋戦争における、「侵略国日本をぶっつぶすのに問題なんかまったくない。とにかく、何しても勝つ!これが正義だ!」というような、アメリカが当時国内向けに放送したであろう映像が流れます。
 これは日本人からしてみたら「お前らだって・・・(以下略)」という感情を呼び起すもので、この映画を観た一部の人は、いい感情を浮かべないでしょうが、これが、凄くうまいなぁと感じるのはその後、映画全体でそれに対するアンチテーゼが語られる時。つまり、「あの時勝つことに熱狂したすべてのアメリカが、『侵略国日本』に普通に暮らす、市井の人々の人生にどう変えたのか」という冷や水をぶっかけるような意味合いを持っているわけです。

 これが意図的なのかそうでないのかわかりませんが、「自衛のため」という理由で同じことを日本もしようとしているように、人間は時にグロテスクです。それを狙って作っているわけじゃないんですが、たぶん監督の、この世の中のグロテスクさ、恐ろしさを提示しようとする姿勢がそうさせるのでしょう。
 「ローマカトリック信者の多いナガサキにも原爆が投下された」という描写がわざわざあることからも、単にアメリカを持ち上げているわけではないということがうかがえるしね。

 グロテスクといえば、その映像の次のシーン、日本で若者に「1945年の8月6日は何の日か知ってますか?」というインタビューをして、誰も応えられないシーンもグロテスクでしたね。映像特典にて監督が、そのシーンを使ったのは「作為的ではないのか?」という日本人インタビュアーの質問に対して、その理由をこう語っていました

8月6日と9日の意味を8人の人に尋ねましたが
皆知りませんでした
僕も日本人スタッフ※も驚きましたね
その時点で撮影を中断しました
これは強烈なメッセージだと
※監督は「オカザキ」姓の日系三世だが日本語話せない

 たぶん、最初は「現代の日本人にとって原爆はどこまで忘れられているのか」というのが知りたくてインタビューしたのでしょうが、場所も場所だけど(たしか渋谷)、それにしても、「誰も知らないなんて本当に日本人かよ!?」と思うよりも先に、あれだけ強烈な被害を、記憶に留めておくべきことと思っていないようになっている現実のグロテスクさを、描きたかったんでしょう。これは語らねば、被爆者の体験し、今も体験していることを語らねば、と。

 オカザキ監督は、忘れぬはずの日を忘れてしまっているのは、教育制度などの問題もあるだろうとしながらも、こうも語る

人間の自然な感情として
不快な記憶は 忘れたいものです
しかし私たちが住んでいるのは
非常に恐ろしい世界です

 こう言うと「忘れるわけないじゃん?」「日付は憶えてないだけだよ」って言う人もいるだろうけれど、アメリカ人が今「9.11を忘れるな」っていうムードなことを考えると、これはオカザキ監督にはショックな事実だったのでしょう。いくら戦争中だったとはいえ、9.11の何十倍の人が亡くなった出来事を、ほぼ忘れてしまっている。
 ・・・・まぁ、これは忘れっぽい日本人の特性かもしれませんが、監督及び「原爆モノを作ろう」というスタッフにはショックでしょう、これは。

 その為、元々アメリカ国内放送向けに作られた作品ですが、日本人がどう、原爆を「忘れてしまっているのか」を気づかせてくれる作品になっています。それはそういう意図でもって作られているわけじゃないんですが、監督がこの作品の制作で一度座礁したことがあり、その原因が「エノラ・ゲイのスミソニアン展示と被爆者展示の撤去」という社会の流れがあったので、そこに対しての思いが噴出したのでしょう。

 けれど、そんな意味合いもある中で、それを「思想的」「政治的」にまとめないのがこの映画の真骨頂。これは監督の制作姿勢にあるのだと思いますが、とにかく、被爆者たちが、原爆をどう体験し、その後どう生きてきたかを恨み辛みをこめてというより、「被爆者の人生」そのものを語る、という点では、単なる被爆者の体験談を流すテープを聴くだけとかより、ずっとずしんと来るものがあります。
 それは、単に映像の力とか、その時の様子を表現する映像のチョイス(被爆者の絵画とか)がよいからとか、単にそれだけじゃない。まして、思想的にどっちより・・・つまり、日本側・アメリカ側の主張だけをまとめたものだからというわけではない。

 映像表現として、プロの表現力として、観た人が、彼らの「人生」そのものをどう「感じる」かにフォーカスを当てています。それは、観た人をコントロールしようという意図がそこにあるわけではなく、ただ、自分もそうであるように、被爆者の本当の人生を知ることで、自分の中で何かを「感じる」作品になっているのです。それを監督は、以下のように表現しています。

歴史的政治的な重要性は別にしても
これはとてつもない物語――
信じがたいほど強烈な物語を語った作品です
しかもそれはごく普通の人々が体験した出来事であり
まさにその点を僕が描きたかったわけです

 これが単なる右左の話ではなく、「人類が忘れちゃいけない経験」だからこそ、それに意味があり、それを形にしたと言わんばかりです。
 監督はこの作品が惹かれるのも、単にそう言った思想的なものを超越したレベルで、「被爆者たちの経験」に観る人が惹かれていくからこそであるということを

社会性ではなく物語にひかれて
人は耳を傾けるのです

 もちろん、その裏にプロの技術があるのは言うまでもありませんが、あくまでもそれは素材の料理方法であり、素材を、キッチリと生かし切れた料理人、オカザキ監督の手腕には、「単なる主張」「教育(プロパガンダ含む)」だけをしたい映像作家も見習うべき所は多くあると思いましたよ。

 自分がどういう料理したいかも大事なんですが、まずは、その、よく知られていない素材の場合は、その魅力を最大限発揮する調理をする・・・・ってのが基本なんでしょうねぇ。

 

 ちなみに、「アメリカ人はみんな原爆を是としてる」なんて意見は過激だから取り上げられるけど、ごく少数なんだよと監督はそのインタビューで語っていましたが、そういうのに耳を傾けない人いるんでしょうねぇ。実際問題、「人類は何回地球を滅ぼせるか」という広告を作ったのはアメリカでですよね?

 それに、この作品の中に、日本では中々お目にかかれない「アメリカでの被爆者支援経験者(日本より報われている)」のお話があるのも特徴的でしたね。そう言うと、「偽善だ」とか、「数が少ないからだ」とか、「被爆の程度が低いからだ」とか、「政治的ナントカだ」とかいう声もあるでしょうから、ホント、何でもかんでも恨みの方に持っていく人がどの国にもいるからこそ、最初にああいった、恨み辛みで大量破壊兵器を肯定しているシーンを流しているのかもしれません。歴史は繰り返すのだと。

(以下、印象に残ったセリフ)

「自殺したいと思った でも私たちローマカトリックでしょ? 自殺は許されてないんですよ」

「私たちは人間らしく生きることも 私たちは人間らしく死ぬこともできませんでした」

「原爆の恐怖を体験した生きる証人たちが 唯一報われる方法は 原爆が二度と使われないことです」(アメリカに渡った被爆者のインタビューやエノラ・ゲイ機長が登場した番組の司会者。ちなみに機長は被爆者に経済的支援をしました)

「パンドラの箱を開けてしまったのさ」(原爆投下隊員)

(以下、監督インタビューその他)

「彼らを英雄や被爆者(英語でもHibakusha)としてではなく あなたや僕と同じ人間として示した作品は無かったのです 怖がらせもせず 政治的でもなく ただヒロシマとナガサキをかあたる なんら手を加えなくても 力強く 重要な物語です」

「目を背けたくなる映画を作っても 誰も見てくれません 見る人の信頼に応える作品を作らないといけない 原爆映画を見ると言えば誰だって恐ろしげに感じます 気が滅入ると思うでしょう ですから僕の映画では穏やかさと誠実さの両立を強く心がけたのです」

「彼らが裁かれていると感じないよう 気をつけました 僕らはただ 真実を知りたいだけです 良いことも 悪いこともです」(被爆者へのインタビューについて)

「まず恐れないことです 彼らは敏感です 悲惨な話に耳をふさぎたいという聞き手の気持ちが伝わるのです」(同上)

 

 現在も上映会があるのでDVDじゃなくても観られますよぉ。DVDは2940円とお安いですけどね。

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