死ななきゃOK

死んだ方がいい、死にたくない、いろいろあるかもしれんけど、とりあえず、死ななきゃOK。っていつも言えたらなぁ・・・

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2012.09.01 00:59
 元町夏央のマンガ、『蜜の味』を読みましたよ。

 なんて書くと、去年放送されたドラマを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、まったく関係ございませんのであしらず。

 ただ、非常にタイミング悪かったですね。同時期に同タイトルのドラマをやるとは・・・個人的にはこちらのマンガの方がすんなり落ちましたけどね、何度読んでも「確かに蜜の味だな」と思うし、読むたびに違った「蜜の味」を発見するというか。


 このマンガは、「市橋ミツカ」と呼ばれる主人公を取り巻く人たちの主観で描かれている短編です。

 まぁ、カンタンに言ってしまえば、よくいる「かわいいけど魔性」という女を語るストーリーなのだけれど、描き方がエグい。

笑顔で「子ども産むわけないじゃん」とか
彼氏が死んでも笑ってしまうとか(ネタバレのため反転)
人を文字通り踏みつけて笑顔とか
自分の結婚式ぶち壊すの楽しみにするとか

 まぁ、文章にすると世の「とんでもない悪女」にくらべるとかわいいもんじゃん? と思えるものだが、「でも、こういう女、いるよね」って納得できちゃうのが、一番エグい。

 なんというか、「しょせんお話の中じゃん?」みたいに言えない、リアルさがある(リアリティでなく)。


 風俗系ライター酒井あゆみが、女性の堕胎についてインタビューした本『堕ろすとき』の作中にもあったんだけど、たいがいの女性は堕胎について真剣に悩み、苦しむものだが、中には、堕ろしたことに対しての感性が一般と違いすぎて「女としてあり得ない」という人も登場した。それは、酒井あゆみ自身が堕胎経験があって、それについて思うところがあり書いているから「あり得ない」と感じたんだろう。

 ちなみにここであえて「風俗系ライター」と私の嫌いなカテゴライズした書き方をしたのは、一般男性が抱く「風俗女は堕胎をなんとも思ってない」という偏ったイメージがあるため。「堕胎」は男が思っている以上に多いし、男が思っている以上に、女は傷ついている(そして考えている)ものです。
 それがこの本を読む意義だと思うのでこういう書き方をさせていただきました。

 ただし、彼女の本は、恐ろしいまでにどれもこれも限りなく主観的であるため、堕胎をなんとも思ってない人の掘り下げがじゅうぶんできてはいないんですよね。「受け入れられない」と感情的になりすぎて客観的に描けてないので、非常に読みづらい。まぁ、これは彼女の作風ではあるのだが。


 ・・・と、話がそれた感もあるが、この、『蜜の味』では、それについて深く書いてはいないんだけど、この一冊を読むだけで、さらっと笑顔で「堕ろしたよ」と、そう言えてしまう女の心理がリアルに読み取れるのが、凄いところだと思う。

 「コイツなら言いかねんな」と。

 ここの描き方は、女性ならではかな、とも思う。

 すごくささいなことなんだけど、男性作家の描く悪女の堕胎とは違ったものを感じる。
 男性の描くそれはあくまでも母性のなさを表現する「演出」や「小道具」だけど、元町夏央の描くそれは、「そのキャラの自然な行動」、もっといえば「こういう女なら当然するだろう(男が気づかないだけで)」くらいな描き方。
 なのに、周りの人間(ほぼ男、特に真面目で優しい男)は、気づいてすらいない。歳のいった男でさえ。

 なんか、人として女として「それはないだろう」という気持ちが普通は働くのに、彼女ミツカには働かない。
 男にわかりやすく言うなら、DVがそんな感じだろうか? その選択肢もなくはないかもしれないけど、選ばんだろうと、「まとも」なら。

 だからか、男が客観的に読む方が案外、すんなり読めるんじゃないかな、と思った。「なるほど、こういう女だったのか」と。
 女が読むと、「共感できない!」という人が多そうで読者を選ぶ気はする。もしくは、「いるいる、こういう女(ここまでひどくないかもしれないけど)。でも私嫌い」的な。

 もちろん、女性として、ここは共感できるけどここはできないとか、ここまでやれちゃうのはある意味すごいとか、そういった肯定的な見方をする人もいるだろうからなんとも言えないが、少なくとも、「これ、おもしろいよ」と勧めても、万人が「面白かった」とは言わない作品だろうとは思う。

 岡崎京子とか、内田春菊っぽい立ち位置・・・というか、彼女ら作品の載る雑誌なのね、激しく了解。しかも、岡崎京子にいたっては、映画で有名になった『へルタースケルター』を掲載してた雑誌ね。


 この『蜜の味』は、そんな編集部の制作方針も合致した作品とも言えるワケで、「市橋ミツカ」と呼ばれる、人を惹きつけてやまない「蜜」に群がった人たちの目から見た「ミツカ(だからミツカなんだろう)」であったり、ミツカ自身が惹きつけられてやまない「かわいさ」とか「ちやほや感」とかの「女の子」という「密」であったり、ここで描かれるすべてのことが、「蜜の味」だな、と感じたワケです。

 あきらかにひどい女であるにも関わらず惹きつけられてしまうのを「単なる魅力」として描くだけでなく、惹きつけられる側の、好奇心とか憧憬とか後悔とか欲望とか、一種のエゴから来る感情をものとして「蜜の味」という言葉のネガティブなイメージも踏まえた上で描かれているのもポイント。

 その最たるものが、本編の主人公とも言える「喜多ユウキ」のエピソードであり、「ひどい女だとは思うが、それ以上に魅力的なので、近づきたい」という想いが子供の頃は果たせなかったからこそ、ミツカの誘惑に負けてしまう・・・といったものになる。

 それは「マジメでいいやつ」でもじゅうぶん考える、人として自然な発想で、というかむしろそういう人ほど憧れが大きくなってしまう、というあたりがとってもリアル。
 そう、そういう人ほど、こういう女にはまってしまうのよ。赤星陽一とか佐藤文哉みたいな遊んでる人間には、「蜜の味」を楽しむところがあるが、喜多ユウキにはそれがない。だからこそ、惹きつけられつづけ、大人になってしまったから、憧憬が大きくなり、子どもの頃できなかったが大人になってできるようになった、キスしたりセックスしたりしたくなるという衝動を抑えられなくなる。それが意味を持つものだと信じて・・・。


 「悪女もの」は、「処刑」されない限り、結構読後感がザラついた感覚のまま終わるものも結構あると私は思うのだが、この作品に関していえば、彼女が別に「処刑」されるわけでもなく、むしろ主人公の心の中で「さわやかな別れ」をされることで、淡々とした形で終わっている。

 それはたぶん、すごく「客観的に」悪女を描けている、ということなんだろうと思う。
 感情移入したり拒否したりとかでもなく、「そこらへんにいそうな悪女を描いたみた」的な。それがまさに「蜜の味」であって、それはなくなりはせず、次から次へと人を惹きつけていくのだ、と。


 単行本では、ミツカの、実家のエピソードが、プロローグとエピローグとして追加されている。

 ページ数にするとそんなに多くはないが、人を惹きつけてやまないミツカの親が、どこにでもいる、仕事熱心でやさしそうなおっちゃんおばちゃんであり、そして「綺麗と褒められる」娘には似合わない、手づくり弁当屋を営む自営業。
 そしてミツカはそれを手伝わされ、弁当の味見をし、唐揚げの美味さに満足することをくり返すうちに太ったような、美しさを全く意識しない母の姿を見、嫌悪する。

 家族への嫌悪が、結婚や子供への憧れを捨てさせているのは、作中に家族や子供と接するエピソードがないことからもうかがえるが、まじめな彼氏とつきあいながら、セフレに「少女に戻れる」とのたまう姿からも、「結婚式ぶち壊しても楽しいな」とのたまう姿も、彼女自身が、そういった、若いから、美しいから許されてる「蜜の味」をやめきれないことをうまく表現している。ちょうど、表紙の絵のように。

 まともな大人なら、どんなに「蜜」がうまかろうが、それだけ味わいつづけるわけにはいかない。今ある現実を受け止め、未来につながる仕事をするようになる。その中で、なにかをあきらめ、(かっこよくはないかもしれないけど)新しい自分を受け入れていく。その象徴が、ミツカを拒絶したユウキであり、ミツカの両親である。

 だが、ミツカは、今の自分をやめられないのだ。

 美人に生まれ、ちやほやされ、中学生の頃から年上の男を軽々と手玉にとり、自分に都合のいい恋愛ができて、日々を楽しんでいる・・・まさに「蜜の味」。


 もちろんそれでは「家族」なんて持てそうもないが、彼女には、そんなものは必要ないのだ。彼女の心を占めているのは、ラストページにあるように「かわいい自分」。ただそれだけ。

 むしろ、そうじゃないもの、特に両親の姿は、まったく受け入れられないものであり、だからこそ、子供もいらないし、夫となるべき人との信頼感もいらないし、彼氏で物足りない部分はセフレで補えるし、興味が湧けば女とも寝れるし、婚約してようが興味を持ったら喰ってしまう・・・といったことができるのだ。

 その精神的な幼さが大人びた雰囲気の外に出て、それが、人を惹きつけて、同時に、その幼さを一歩離れたところではなく至近距離で見てしまった人間は、離れていく。特に、道徳的に生きている人には、理解できない「幼さ」。
 佐藤文哉が自分の中にあり、なおかつミツカの中に見つけた、そういった幼さに近いものを受け入れようと文哉はミツカと一緒になろうとするが、ミツカはおそらく、そういったことすら考えていないのだろう。目の前のものしか見ていないし、興味がない彼女には。

 そんな、一時の「蜜の味」にしかなれない女が淋しいかどうかは本人にしかわからないが、少なくとも、今の段階では、本人は寂しくもなんともないだろう。表紙絵のように「女の子」という「蜜の味」に一番ハマってるのは、自分自身なのだから。


 そういった意味で、悪女にムカつき、ヘタに「処刑」したり、「大人になった姿」を描いたら駄作に落ちていたと思いますが、キャラクターの性格を変えず自由に動かして、きちんと「蜜の味」というテーマが描けているいい作品ですね。人って、そうそう変わらないですよね。

 万人に勧められるかというと微妙ですが、作品はタイトルやテーマが重要だと思う方(短編好きな方)ならかなり満足するんではないでしょうか?

 あと、「あの娘はやめといた方がいいよ」と言われる、マジメでいい人にも! そんな「蜜の味」の秘密が描かれていますから・・・・まぁ、幻滅しないかぎり、なかなか抜け出せないものではありますが。
 
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